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【人生を左右した思い出の品物】

上記長文からさらにここまでたどり着いていただいた方、読み進めていただきありがとうございます。
あなたはご自身が好きになったことの根底といったことが何か、考えたことはありますでしょうか?
わたし自身にとって、音楽のルーツであろう出来事を一つご紹介いたします。


小学生に上がる少し前のこと。
その日、私と兄は喧嘩をしていた。

私はなかなかの生意気な子供だったので、おそらくその日「も」喧嘩していたのだろう。
やがて大きくなるにつれ兄に逆らうのを諦めていくのだが、当時はまだ引き分け(と思っていたのは私だけだったのかもしれない)だった。

その日の気分は最悪だった。
とにかく私は大泣きしていた。そんなになるまで一体何で喧嘩していたのだろう。まぁきっと大したことではない。(当時は大ごとだったに違いない。。。)

父は仕事中、母は買い物やらでお出かけ中。兄と二人っきりの最悪な空間を過ごさなければならなかった。

しばらくして母が帰ってきた。手には普段の買い物では見かけない、そこそこの大きい荷物。
(何が入っているんだろう?)
兄も私も喧嘩の最悪な気分を削がれ、その物体に興味津々になった。

包みを開けてみると、中にはカセットデッキが入っていた。
目にも鮮やかな真っ赤なカラー。長方体のごつごつした、いかにも男の子が好みそうなメカのフォルム。思いもよらぬものが兄弟の目に不意打ちで飛び込んできたのだ。

そして一本のカセットテープもあった。
当時よくテレビで見てた、特撮ヒーローや戦隊ものの曲が数曲入っている、いわゆるオムニバスものだ。テレビのオープニングとエンディングの2曲ずつ、合わせて8曲が収録されている。

「なにこれー!?」「すげぇー!!」
我が家に突然、見知らぬ最先端のアイテムが舞い込んできたのだ!
最低値まで落ち込んでいた兄弟の気分はまるで嘘だったかのように、一気に最高潮のテンションにあがる。

兄弟は驚き、そして喜んだ。大好きなヒーローの曲や、知らないアニメの曲も入ってる。今でもカラオケで歌う(笑)

母はその日のお昼に、カレーを作ってくれた。二人はカレーをほおばりながら、夢中になってカセットデッキから流れるヒーローたちの音楽を聴いていた。
なぜだろう、その日のカレーは格段においしかった。

ヒーローたちの音楽と各段においしいカレー。喧嘩で最悪だったはずの気分は180度方向を変え、ゴキゲンに晴れ渡っていた。
優しい気持ちが芽生えていた私は、口には出さなかったが心の中で「けんかしてゴメンね」と言った。

スピーカーから流れる、時に力強く、時に優しい楽曲たちは、確かに二人を優しく包み込んでくれたのだった。
突如我が家に舞い込んだそれらは、兄弟にとってはピンチに現れたヒーローのような存在だったのかもしれない。

この時、音楽の持つ力をハッキリと体感できたのだと私は認識している。

私の「音楽が好き」という原点は、ここで生まれた。やがて吹奏楽でトロンボーンを吹くのも、ヘヴィロックバンドでベースを弾くのも、ソロ・ベーシストを目指すのも、ここがスタートなのである。

激しい音楽も好きだし、静かな音楽も好き。
けど私にとっての始まりの音楽は、優しい存在なのだ。

音楽の優しさに包まれたい。

そして、誰かの優しい気持ちと共鳴するような音楽を、いつか奏でたい。

お題【人生を左右した思い出の品物】
私にとってのそれは、喧嘩した兄と聴いた「真っ赤で長方体のカセットデッキと、ヒーローもののカセットテープ。」

あのスタートから今まで、まぁのんびりふらふらと人生を歩んでいるけど、私から音楽が奪われることだけは一生ない。

☆ ☆ ☆

ちなみにカレーはそこまで好きにはなりませんでした。辛いのは苦手なんです。。。